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昼寝から目覚めたあと、
ふと頭が軽くなる感覚を
覚えたことはありませんか。
眠る前はまとまらなかった考えが、
不思議とすっきりしている。
あの感覚は気のせいではなく、
眠っているあいだに
脳の中で進む回復のプロセスが
関係しています。
今回は、昼寝が脳に
どう働くのかを、
神経科学の視点から
整理していきます。
朝から頭を使い続けると、
見たこと、聞いたこと、
考えたことは、
**海馬(かいば)**という部位に
一度仮置きされます。
海馬は、
新しい情報を最初に受け取る
窓口のような場所です。
ただし、この窓口には
限りがあります。
朝から働き続けて
いっぱいになると、
新しい情報を
うまく受け取れなくなります。
午後に頭が働かなくなるのは、
怠けているのではなく、
窓口が物理的に
埋まっている状態
だからです。
ここで重要なのが、
海馬は自分の力だけでは
空にできないということです。
窓口を空にする作業は、
基本的に
眠っているあいだにしか
起こりません。
睡眠中、
海馬にたまった情報は
少しずつ
大脳皮質という
別の場所へ
送り出されていきます。
この「送り出し」が進むと、
海馬の窓口に空きができ、
新しい情報を
また受け取れるように
なります。
つまり眠りとは、
脳にとって
ただの休憩ではなく、
窓口を空にするための
作業時間
だといえます。
ここで一つ、
疑問が生まれます。
夜の長い睡眠だけでなく、
短い昼寝でも、
この「空にする作業」は
起こるのでしょうか。
次の章では、
この問いに答える
研究を見ていきます。
この問いを
直接確かめた研究があります。
シンガポール国立大学の
Ongらが2020年に発表した
実験です。
健康な成人40名を
昼寝群と覚醒群に分け、
昼と夕方の2回、
単語の記憶テストを行いました。
結果は明確でした。
昼寝をとった群は、
起きていた群に比べて、
平均21%多く
単語を覚えられていました。
さらに脳の画像では、
昼寝群だけ
左側の海馬の活動が
昼寝の前後で
高まっていました。
海馬が回復し、
新しい情報を
受け取りやすくなった
状態です。
では、
この回復を生んだのは
眠りの中の何だったのでしょうか。
次の章で
その手がかりを
見ていきます。

昼寝群の記憶力が
回復した理由を探ると、
眠りの中に現れる
ある脳波が浮かびあがりました。
睡眠紡錘波(スピンドル)
と呼ばれる、
1秒前後の短い波形です。
Ongらの研究では、
昼寝中にこの波形が
多く出た人ほど、
海馬の活動の回復も、
記憶力の伸びも
大きいことがわかりました。
スピンドルは、
海馬にたまった情報を
大脳皮質へ運ぶ
「運び役」として
働いていると考えられています。
つまり、
昼寝の回復力は
ただ眠れたかどうかだけでなく、
この小さな波形が
どれだけ出たかに
左右されています。
深くて質の良い眠りほど、
スピンドルは出やすくなります。

ここまで見てきた
海馬の回復も、
スピンドルの出やすさも、
自律神経の状態に
左右されることが
知られています。
緊張が続いている状態では、
眠りそのものが浅くなり、
スピンドルも
出にくくなります。
昼寝をとっても
深い回復に
たどり着けない。
そういう身体の状態が、
慢性的な疲労感として
積み重なっていきます。
そのことは、
研究データにも
現れています。
Mesasらが2023年に発表した
22件の研究を統合した分析でも、
昼寝の効果が最も
はっきり現れたのは、
目覚めてから
60分以上経過したあと
でした。
これは睡眠慣性、
つまり目覚め直後の
頭が重い感覚が
落ち着くまでの時間と
一致しています。
裏を返せば、
目覚め直後に
すっきりしない感覚が
強い人ほど、
自律神経の
切り替わりに
時間がかかっている
可能性があります。
当院での施術は、
この「切り替わりにくさ」を
整えることを
目指しています。
鍼灸によって
自律神経の過緊張をやわらげ、
昼寝であれ、
夜の睡眠であれ、
身体が本来持っている
回復力を
発揮しやすくする
土台を整えていきます。
昼寝がうまく働かないと
感じる方は、
昼寝のとり方だけでなく、
身体の状態そのものに
目を向ける価値があります。
昼寝のあとに頭が動くのは、
海馬という窓口が
空になったからです。
その作業を支えているのが、
スピンドルという
小さな脳波でした。
仕組みを知ることで、
昼寝は、脳が能動的に
回復するための時間として
見えてきます。
そしてその回復を
十分に引き出すためには、
眠りの質を支える
身体の土台が必要です。
昼寝の効果を感じにくい方は、
ぜひ一度、
身体の状態から
見直してみてください。
出典・参考(抜粋)
・Ong, J.L., et al. (2020) Sleep.
・Mesas, A.E., et al. (2023) British Journal of Sports Medicine.
・Leong, R.L.F., et al. (2022) Sleep Medicine Reviews.
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