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朝、鏡を見て、
疲れが顔に出ていると感じる。
そんな日が続くと、
「歳のせいか」と思ってしまいませんか。
「若い頃なら、すぐ疲れが抜けたのに」
そう感じている方も
多いかもしれません。
ですが、これは気合いや年齢だけの問題ではなく、
眠りの深さが関わる生理現象です。
前回は、眠りの後半に増える男性ホルモンの話をしました。
今回は、それとは逆の時間帯に注目し、
「眠りの深さと成長ホルモン」の関係を見ていきます。
成長ホルモンと聞くと、
子どもの身長を伸ばすもの、
という印象が強いかもしれません。
ですが、大人になってからも、
その働きが止まるわけではありません。
筋肉や骨の量を保つこと。
体脂肪の代謝を促すこと。
血管の状態を整えたり、
運動をするための体力を支えたりすることにも、
成長ホルモンは関わっています。
つまり、若い頃の
「回復力」や「張り」の土台のひとつに
なっているのです。
このホルモンは、
日中もわずかに分泌されていますが、
その大半は実は、
眠っている間に作られています。
しかも、一晩のうちの
どの時間帯でも均等に出るわけではありません。
特定のタイミングに、
まとまって分泌される瞬間があるのです。
この分泌の引き金は、
脳内の神経伝達物質の働きによって
制御されていることも分かっています。
そのタイミングこそが、
次の章でお話しする
「入眠直後の深い眠り」です。
前章で触れた
成長ホルモンの分泌タイミング。
これを詳しく調べた研究があります。
健康な若い男性を対象に、
一晩を通して採血を行い、
睡眠の段階と
ホルモン濃度の関係を調べました。
その結果、
成長ホルモンの濃度が最も高かったのは、
「徐波睡眠」と呼ばれる、
最も深いノンレム睡眠の間でした。
日中の覚醒時や、
浅い眠りの時間帯と比べても、
この差ははっきりとしたものでした。
さらに、別の研究では
興味深いことが分かっています。
一晩を通して15分おきに採血を行いながら、
睡眠薬とは異なる働きを持つ薬剤を用いて、
入眠直後の徐波睡眠を
人為的に増やしたところ、
成長ホルモンの分泌量も、
およそ2倍に増加したのです。
徐波睡眠が深く長くなるほど、
分泌量の増加も大きくなるという
一定の対応関係も確認されました。
つまり、成長ホルモンは
ただ眠れば出るというものではなく、
「どれだけ深く眠れたか」によって、
その量が左右されるのです。
前回お話ししたテストステロンが
眠りの後半、レム睡眠の時間帯に増えるのに対し、
成長ホルモンは、
眠り始めのわずかな時間に
勝負が決まります。

前章でお話しした、
「深い眠りとともに増える成長ホルモン」。
このリズムは、
歳を重ねるとどう変化するのでしょうか。
成長ホルモンの分泌量は、
大人になった後も一定ではありません。
身長の伸びが止まる頃から、
少しずつ減り始めることが分かっています。
これは、特別なことではなく、
多くの方に共通して起こる変化です。
ただし、ここで
気をつけたいことがあります。
「成長ホルモンが多いほど良い」
という単純な話ではない、という点です。
実は、動物を使った研究の中には、
成長ホルモンの働きが少ないほど、
寿命が延びるという、
一見不思議な報告も
数多く存在します。
また、成長ホルモンを
補って増やす治療についても、
健康な高齢者への効果は
限定的であり、
むくみや関節の痛みといった
副作用が報告される場合もあります。
つまり、成長ホルモンとは、
多ければ良い、少なければ悪いという
単純な足し算では
語れないホルモンなのです。
だからこそ、注目したいのは、
薬やサプリメントで補うことではなく、
もともと身体に備わっている、
深い眠りを妨げないという
ごく自然なアプローチです。
歳を重ねてなお、
深い眠りを保てている方がいる。
そこにこそ、
次章でお話しするヒントがあります。

たとえば、就寝前のスマートフォン。
強い光や情報の刺激は、
入眠までの時間を延ばし、
最初に訪れるはずの
深い眠りを浅くしてしまいます。
たとえば、寝る直前の食事や飲酒。
消化のための活動が続くと、
身体は「休む態勢」に
入りにくくなります。
そしてもう一つ、
見落とされがちなものがあります。
それは、
自律神経の乱れです。
深い眠りへと入っていくには、
身体が緊張から緩んでいく、
交感神経から副交感神経への
切り替えが必要です。
日中の緊張や疲労が
抜けきらないまま床に入ると、
この切り替えがうまく進まず、
入眠直後の深い眠りが
浅くなってしまうことがあります。
鍼灸や指圧は、
この切り替えを
身体の外から
助ける手段のひとつです。
薬に頼らず、
自律神経のバランスを整えることで、
その最初の深い眠りを、
本来の質へと近づけていく。
それも、
若さを保つための
静かな選択肢のひとつだと思います。
眠りが浅くなったと感じるのは、
気合いの問題ではありませんでした。
入眠直後の、
ほんの数十分。
そこにどれだけ深く眠れるかで、
成長ホルモンの分泌量は
大きく変わってきます。
前回のテストステロンは、
眠りの後半に訪れる、静かな盛り上がり。
今回の成長ホルモンは、
眠り始めに訪れる、一瞬の集中でした。
若さとは、
特別な何かを足すことではなく、
もともと備わっている仕組みを、
きちんと働かせること
なのかもしれません。
出典・参考(抜粋)
・Chihara, K., et al. (1976) Journal of Clinical Investigation.
・Davidson, J.R., et al. (1991) Journal of Psychiatry & Neuroscience.
・Van Cauter, E., et al. (1997) Journal of Clinical Investigation.
・Bartke, A. (2019) World Journal of Men’s Health.
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